記憶のさまざまな種類
よく耳にする記憶の種類に、長期記憶や短期記憶などがありますが、ほかにも学術分類的には、さまざまな種類の記憶があります。ここでは心理学分野、臨床神経学分野、陳述分野、非陳述分野の4つの分野に分け、それぞれに属する記憶の種類について確認していきましょう。
記憶の種類
心理学分野における記憶
感覚記憶
各感覚器官に一時的に保持される記憶を、感覚記憶と言います。感覚器官で保持される記憶なので、記憶の保持期間は短め。感覚記憶の中で脳が意識を向けたものに関してのみ、短期記憶として脳に残ります。
短期記憶
主に感覚記憶の中で脳が意識したものに関し、一時的に脳に残される記憶が短期記憶です。保持期間は、わずか数十秒程度。一度に脳にたくわえられる短期記憶の量には限界があります。
長期記憶
短期記憶の大半は数十秒で忘却されますが、中には忘却されず、長く脳の中に残る記憶があります。これを長期記憶と言います。長期記憶の保持期間は、短いものだと数分程度、長いものだと一生涯です。記憶の保存容量に制限がないことも、短期記憶とは異なる長期記憶の特徴とされています。
なお長期記憶には、後述する「陳述記憶」と「非陳述記憶」の2種類があります。
臨床神経学分野における記憶
即時記憶
記憶した直後、すぐに想起できる記憶で、かつ想起までに何らの干渉が挟まれない記憶のことを、臨床神経学の分野では即時記憶と言います。数字の復唱などを通じ、即時記憶の評価を行うことがあります。
近時記憶
即時記憶よりも長く保持される記憶(数分から数日)で、かつ記憶と想起との間に干渉が挟まれる記憶のことを、近時記憶と言います。想起までに干渉が挟まれることから、一時的には意識から忘却されることが特徴です。臨床では、前夜の夕食の内容を尋ねるなどして近時記憶の評価がなされます。
短期記憶・長期記憶が記憶の保持期間のみを基準に分類されていることに対し、即時記憶・近時記憶は、記憶の保持期間に加えて、干渉の介在の有無も基準に加えられる点が異なります。
遠隔記憶
近時記憶よりも、さらに保持期間の長い記憶が遠隔記憶です。保持期間は数十年程度に及ぶことがあります。臨床では、冠婚葬祭や旅行など個人の生活史を尋ねることで遠隔記憶が評価されます。
陳述分野における記憶
エピソード記憶
個人が経験した出来事の記憶を、エピソード記憶と言います。具体的には、昨夜、誰とどんな夕食を摂ったかなどの記憶がエピソード記憶です。
出来事そのものに加え、それに付随するさまざまな情報も記憶されているのがエピソード記憶の特徴の一つ。よってエピソード記憶には、物理的な情報のみならず、エピソードに伴う心理的な情報も記憶されることが普通です。
なお、臨床神経学の分野で「記憶障害」と言うときは、このエピソード記憶の障害のみを指すことが一般的です。
意味記憶
言語と概念を伴った知識的な記憶のことを、意味記憶と言います。具体的には、リンゴの大きさや味、果物の一種であるという知識などの記憶が、意味記憶です。世の中にある組織化された情報の記憶のことを、意味記憶と考えて良いでしょう。
エピソード記憶とは異なり、特定の出来事をきっかけに記憶されるのではなく、経験の反復の中でいつの間にか形成されるのが特徴。よって、その情報を、いつ、どこで、どのようにして覚えたのか、という記憶は消滅します。
非陳述分野における記憶
手続き記憶
言語と概念の反復によって形成される記憶が意味記憶であることに対し、言語や概念ではなく、運動や技能などの経験の反復によって形成される記憶のことを、手書き記憶と言います。具体的には、自転車に乗る方法の記憶などです。
プライミング
過去の経験と同じものに属する(同定と言います)との判断を促進したり、また、過去の経験とは違うものであるとの判断をしたりする記憶のことを、プライミングと言います。
古典的条件付け
梅干しを見ると唾液が出る、などのように、本来は直接結び付かない経験の繰り返しで形成される現象のことを、古典的条件付けと言います。
非連合学習
同じ刺激が反復されることにより、その刺激に対する反応が弱くなったり、逆に増強したりする現象のことを、非連合学習と言います。