物忘れ治療薬の使用
市販薬の中にも、病院で使用する薬の中にも、物忘れの改善に効能のある治療薬があります。
しかしながら、同じ「物忘れ」という症状であったとしても、その原因が異なることがあります。
たとえば、胃痛の原因には胃炎、胃がん、寄生虫などの様々な原因がありますが、同様に物忘れにも様々な原因があると考えてください。
物忘れの原因には、大きく分けて2つあります。「加齢による記憶力の低下」、もしくは「認知症」です。
前者は自然現象の一種であり、後者は具体的な原因を持った病気の一種です。
物忘れが著しくなったと自覚した場合、または、物忘れが激しいことを家族から指摘された場合、その原因が加齢なのか認知症なのかを明確に知る必要があります。
もし認知症の患者が、市販薬の「物忘れ改善薬」を服用した場合、症状が悪化したり副作用が生じたりする恐れがあるので注意してください。
以下、「加齢による記憶力の低下」と「認知症」とに分け、それぞれに効果が期待できる治療薬をご紹介します。
加齢による記憶力の低下に効く治療薬
加齢による記憶力の低下が原因の物忘れの場合、市販されている第3類医薬品を服用することで、ある程度症状が改善する可能性があります。
具体的には、漢方生薬「オンジ」を配合した治療薬に物忘れ改善効果があるとされています。
キオグッド(ロート製薬)
目薬で知られる老舗製薬会社、ロート製薬が販売している「オンジ」配合治療薬。「オンジ」の配合量が多く、コストパフォーマンスに優れている点が特徴です。
キノウケア(日本薬師堂)
「グルコンEX錠」などで知られる日本薬師堂が販売する「オンジ」配合の治療薬。電話やメールで、常駐する薬剤師に服用の相談をすることができます。
ワスノン(小林製薬)
大手製薬会社・小林製薬が販売する「オンジ」配合治療薬。漢方生薬の研究に熱心な製薬会社です。
アレデル(クラシエ)
漢方のパイオニアと言われるクラシエの「オンジ」配合治療薬。品質管理を徹底している製薬会社です。
メモリーケア(大正製薬)
市販薬のシェアでは国内No.1の大正製薬が販売する「オンジ」配合治療薬。同社独自の「瞬間薄膜濃縮法」により成分を高濃度で抽出しました。
遠志の恵み(エーザイ)
「チョコラBB」などで知られる大手製薬会社・エーザイが販売する「オンジ」配合治療薬。エーザイでは珍しい漢方医薬品です。
以上は第3類医薬品に属しているため、ある程度の物忘れ改善効果は期待できるでしょう。
なお、DHAやEPAなどを高配合したサプリメントも物忘れ改善に良い、とされることがありますが、サプリメントは医薬品ではなく食品に属します。
よってサプリメントは、上記で紹介した治療薬とは根本的に性質が異なる点を理解しておきましょう。
認知症に効く治療薬
認知症は、その原因の違いによって様々な種類に分けられます。
それら認知症の打ちで最も多いのが、アルツハイマー型認知症です。他に有名な認知症としては、レビー小体型認知症、若年性認知症、脳血管性認知症(脳卒中の影響による認知症)などがあります。
現在、認知症治療薬として国内で承認されている薬は4種類。いずれも、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の2種類に効果的とされています。
なお、認知症治療薬を使用することで、認知症が改善することはありません。ただし、症状の進行を遅らせることはできます。
認知症を放置すると症状は急速に進行するため、早期発見・早期治療こそ、患者の良質なQOL(生活の質)を長期的に維持させるためのポイントとなります。
アリセプト(内服薬)
アルツハイマー型認知症、およびレビー小体型認知症の両方に高い効果を発揮します。症状が高度の患者にも適応。1日1回服用します。
レミニール(内服薬)
主に、アルツハイマー型認知症のうち軽度~中等度の患者が適応となります。1日2回服用。
リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(貼付剤)
主に、アルツハイマー型認知症のうち軽度~中等度の患者が適応となります。1日1回貼付して使用します。
メマリー(内服薬)
主に、アルツハイマー型認知症のうち中等度~高度の患者が適応となります。1日1回服用。
以上の治療薬のうち、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの3種類につては「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」に分類され、メマリーについては「NMDA受容体拮抗薬」に分類されます。
治療薬の副作用
物忘れに効くとされる市販薬、また認知症の治療薬について、それぞれ起こりうる副作用を確認してみましょう。
市販薬に起こりうる副作用
市販薬の主成分は、漢方生薬である「オンジ」という成分。漢方由来の成分なので、一般的な鼻炎薬や風邪薬などと比較すると、その副作用は穏やかとされています。
しかし、漢方由来成分とは言え、まったく副作用の恐れがないというわけではありません。「オンジ」が持つ代表的な副作用として、偽アルドステロン症というむくみが生じたり、または血圧が上昇したりすることがある、と言われています。
また、上で紹介した各市販薬の添付文書には、皮膚症状として「発疹・発赤、かゆみ」、消化器症状として「吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感」、精神神経系症状として「めまい」等の副作用のリスクが記載されています。下痢症状が長く見られる可能性もあるとのことです。
いずれも副作用の程度は軽いと考えられますが、副作用のリスクがゼロではないことは理解しておきましょう。
認知症治療薬に起こりうる副作用
アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの3種類の治療薬にいいては、副作用として、下痢や嘔吐などの消化器症状が見られることがあります。
また、外用貼付薬であるリバスタッチパッチ/イクセロンパッチにおいては、貼付の影響による皮膚のかゆみ、発赤などが生じることもあります。
メマリーには、神経症状の副作用が見られることがある、と言われています。具体的には、めまい、めまいに伴うふらつきなどです。
治療薬の服用管理を徹底しましょう
物忘れが著しくなった場合、その原因が加齢であれ認知症であれ、治療薬の管理を徹底することが大事です。
なぜならば、薬を飲んだことを本人が忘れてしまう恐れがあるからです。逆に、薬を飲んでいないのに飲んだと思い込んでしまう恐れもあります。
薬を過剰に摂取すると副作用をもたらす恐れがあり、逆に、薬を飲み忘れると薬効を得られないことになります。服用の適切な管理が大切です。
治療薬の服用管理を適切に行なうためには、家族の協力が必要となるでしょう。患者自身で管理する機会がある場合には、服用に際して必ずメモを取る等の工夫が必要です。
持病の治療のために他の薬も服用している患者の場合、さらに薬の管理は難しくなります。薬の管理について、主治医から適切な指導を仰ぐことが大切です。
物忘れが著しくなったなら早急に専門外来の受診を
市販されている治療薬は、認知症の改善薬ではありません。加齢による自然な物忘れの改善を目指す第3類医薬品です。
冒頭に説明した通り、加齢による物忘れと認知症とは、まったく原因が異なります。また、認知症を発症すると急速なスピードで症状が悪化します。
認知症の早期発見・早期治療のためには、症状を自覚したら速やかに専門外来を受診することが大事。認知症と診断された場合には、市販薬を使用せず病院の治療に従ってください。
市販薬を第3類医薬品として認可した機関は、厚生労働省です。
一方で、物忘れの原因を加齢と思いこむことで認知症の適切な受診機会を逸する可能性があるとして厚生労働省は注意喚起を促しています。市販薬の各メーカーも、添付文書の冒頭に「認知症の方、認知症の疑いがある方は服用しないでください」と明記しています。
物忘れをめぐり治療薬については、この点をよく理解しておきましょう。