物忘れ外来の受診
ここでは、物忘れの改善方法の一つとして、物忘れ外来(病院)の利用について詳しく解説しています。
物忘れ外来(病院)を利用する
物忘れ外来とは
昨今、多くの病院で「物忘れ外来」という診療科を目にすることがあります。「認知症外来」や「メモリークリニック」などの名称を冠している病院・診療所も、概ね「物忘れ外来」と思ってください。
「物忘れ外来」とは、その名の通り、物忘れの改善を目指す診療科のこと。多くの場合、認知症や初期認知症の症状に対応している診療科になります。
「もの忘れ外来」を受診するかどうかの線引きは難しい
中年期以降、多くの人は「若い頃に比べて記憶力が悪くなった」と自覚します。記憶力が悪くなったということは、そのまま物忘れがひどくなった、ということにもなるでしょう。
これら症状が「物忘れ外来」の診療を必要とする程度かどうかについては、なかなか線引きは難しいところとなります。
以下、物忘れを自覚している方々に、まずは一般的な知識として「物忘れ外来」を理解しておいてほしいと思います。
通常の外来と物忘れ外来との違い
高齢になると、物忘れが著しくなり、かつ様々な精神症状(幻想・幻聴など)が発症する方もいらっしゃいます。
これら症状は、脳に原因を持つもの。よって一般的に、ご家族は脳を診療してくれる脳外科や精神科、神経内科などを受診させることになるでしょう。
もちろん、脳外科・精神科・神経内科でも、物忘れに対する診療を行うことはできます。しかし、それら診療科における通常の外来と「物忘れ外来」とは、異なる部分があることも認識しておきましょう。
- 通常の外来
- 脳に関連する症状を広く診療しているところ。
- 物忘れ外来
- 脳に関連する症状のうち、認知症などの加齢による症状を専門的に診療しているところ。
「物忘れ外来」を標榜する病院やクリニックの診療科には、一般に日本老年精神医学会や日本認知症学会などから、専門医の資格を付与された医師が在籍しているのです。
「物忘れ外来」における診療の流れ
「物忘れ外来」では、医療従事者による問診、および医師による診察の二段階で診療が行なわれます。
1.医療従事者による問診
医師や看護師などの医療従事者が、患者の問診をします。患者本人や家族から症状をヒアリングし、以後、その症状の原因を探る方法を検討するための材料とします。
医療従事者による問診の主な内容
- 主訴
- 主な症状。物忘れを始め、本来の人格・性格とは異なる言動などについて、本人または家族から確認します。
- 現病歴
- 症状の発症時期や、現在の症状にいたるまでの流れなどを、主に家族から確認します。
- 既往歴
- 過去に患った病気を確認します。たとえばアルツハイマーは、糖尿病の既往歴がある方に多く見られます。
- 生活歴
- 患者の出生や教育歴、婚姻歴、職歴などの、いわゆる生活歴を詳細に確認します。以後の生活支援にあたり、大事な情報となります。
- 家族の既往歴
- 家族の既往歴などを確認します。たとえば若年性アルツハイマーには、遺伝性が認められているのです。
2.医師による診察
最初から医師が問診を行なう場合には、上記「1」と「2」を兼ねて行います。
なお、医師の診察では、主に患者本人からのヒアリングが行なわれます。患者が答えている内容が正しいものなのかどうかを確認するため、通常は家族の同席が必要となります。
医師による診察の主な内容
- 正常な物忘れかどうか
- 加齢に伴う一般的な物忘れなのか、または病気としての認知症なのか、医師が判断します。
- 脳以外に原因がある物忘れかどうか
- 物忘れの症状は、他の病気が原因で発症することもあります。その場合、早急に主原因となる病気を治療しなければなりません。
- 一時的な症状かどうか
- 意識障害などの影響により一時的に生じた物忘れなのかどうか、という点について医師が判断します。
患者の状態を家族が確認しておくことも大事
「物忘れ外来」の診療にあたっては、医師が正確に症状・原因・対策を判断するために、患者の家族の協力も必要です。
物忘れが著しくなっている場合、患者自身は自分自身の言動を正しく認識・記憶をできていない可能性があります。患者の普段の言動を正しく伝えるために、家族は患者の行動をよく観察しておいてください。
家族は、たとえば患者における以下のような状況をチェックしておきましょう。
大きく分けると「昔できていた普通の行動を、今も正しくできるか」「異常行動・精神症状があるか」の2点をチェックしておきます。
1.昔できていた普通の行動を、今も正しくできるか
- 正しい交通手段を使って目的地に移動できるかどうか
- バスや電車を正しく利用して目的地に到着できるか、また、逆に適切な交通手段を利用して帰宅できるかどうか、をチェックします。
- 適切な金銭管理ができるかどうか
- 所持金に対してはもちろんですが、1ヶ月に使うべき適切な金銭感覚のもとで現在の買い物をできているかどうか、をチェックします。
- 自分で自分の薬を管理できるかどうか
- 病気になった時など、自分で適切な薬を選択して、適切な用法・用量で使用できるかどうか、をチェックします。
患者が若い時に自立した生活を営んでいた場合、これらの行為は問題なくできていたはずです。
若い時に問題なくできていた日常動作に変調が生じたとき、医師は患者に軽い認知症を疑います。
2.異常行動・精神症状があるか
本人の性格・人格とはかけ離れた異常行動や精神症状があるかどうかを、家族はチェックしておきましょう。たとえば、以下のような例です。
- 夜中に起きて暗闇の中で冷蔵庫のものを食べている
- 突然怒り出し、暴言や暴力をふるう
- 何度注意しても外出などをやめない
- 被害妄想がある(何かを盗まれたと思い込む、など)
- 人を誤認する
- 幻聴・幻覚がある
- うつに似た症状がある、etc.
これら異常行動・精神症状のことを、医学的にはBPSDと言います。症状の程度によっては、BPSDは家族に著しい負担を強いることがあります。
物忘れ外来を受診する際の注意点
「物忘れ外来」の受診を検討する際には、以下の3点を覚えておきましょう。
1.受診できる日時を確認する
多くの病院が「物忘れ外来」を設置する時代にはなりましたが、必ずしも毎日開設しているとは限りません。特定の曜日・特定の時間のみ開設されることも多い診療科です。
事前に病院に連絡を入れて受信可能な日時を確認し、必要であれば予約を入れておきましょう。
2.紹介状が必要な場合もある
大学病院や大規模病院の「物忘れ外来」を受診する場合、かかりつけ医からの紹介状が必要となる場合があります。
受診を希望する病院で紹介状を要する場合、事前にかかりつけ医に紹介状の作成をお願いしておきましょう。
3.家族同伴で診療を受ける
医師が患者の状態を正しく診察するためには、物忘れを発症していない家族の協力が必要です。
患者一人で来院した場合、または、同じく物忘れを生じている家族(高齢の配偶者など)が同伴した場合、誤診が生じる恐れもあるため注意してください。